世界中を駆け抜けた衝撃。アイルトン・セナ、壮絶な最期。
そしてセナの事故に続く。
前日にラッツェンバーガーを失ったシムテックは、デビッド・ブラバム一人が喪章をつけて参加。
スタート前にバーニィ・エクレストンがブラバムに声をかけるシーンも。
注目のスタートは、このレースで復帰(彼にとって事実上の開幕)となったJ.J.レートのストールから。
後方からスタートしたロータスのペドロ・ラミーが、タイヤスモークの中気づかずに猛烈な勢いでベネトンに突っ込む。
このアクシデントで、タイヤを含む破片がグランドスタンドまで飛び込み、観客に怪我人が出ていた。
赤旗かと思われたが、セーフティ・カーが出動し、レースは続行された。
たらればだが。このとき赤旗が出ていれば。
セナのリアビューを見ると、後続が現場でラインを大きく変えているのに対し、セナはラインをキープしていた*1。
6周目に入るところで再スタート。セナの後ろにぴたりとつけるマイケル・シューマッハーのベネトン。遅れたベルガーのフェラーリ。
レースは7周目に突入。そして。
高速のタンブレロ。マイケルのオンボードから消える、ヒーローのマシン。クラッシュ。
ミラーを見ながらヴィルヌーヴへ入るマイケル。
コースに散らばった破片をよけながら後続は抜ける。ウィリアムズのフロントウィングを車体下部から巻き上げるフェラーリ。
赤旗。
絶望的なクラッシュだった。
頭が少し動く。そして地面に広がった鮮血・・・ヘリコプターで病院に運ばれたセナは、二度と戻ることはなかった。
再スタート前のフォーメーション。ハインツ−ハラルト・フレンツェンのザウバーがストール。
スタート。ベルガーがマシントラブルでリタイア。右京の好走。ブラバムがリタイア。地元局RAIが、マイケルのベネトンを見失ってしまう。
そして。
ミケーレ・アルボレートのミナルディがピットアウトした際に何かが起きた。
突然、ガレージから跳ね上がったタイヤ。それがアルボレートの右リアタイヤだった。巻き込まれたロータスやフェラーリのクルー。
ピットレーンに救急車。
何が起きているのかこのイモラで?
とにもかくにもマイケル3連勝。しかし喜びはなかった。
時はたって。
セナ裁判は係争中である。
誰に責任があるのか?
そんなことはどうでもいい。
知りたいのは、あの時何が起きたのか?
ただそれだけなのに。誰かを刑事罰に処さなければ終わらない。それがイタリアの司法だ。
モータースポーツに危険はつき物だ。
それは、1994年モナコGPでの古館さんの言葉がすべて物語っている。
しかし、それを完全に否定してしまうようなイタリアの司法に、疑問を覚えたのも事実。
この後。
モナコGPの木曜日。カール・ヴェンドリンガー(ザウバー)がトンネル直後のヌーヴェル・シケインで大クラッシュし、一時危険な状態になった。
そして、急激なレギュレーション改定。
リアウィング取り付け部の強度が一気に不足し、バルセロナテストでラミーらが大クラッシュ。
スペインGPではラッツェンバーガーの後釜として参加したアンドレア・モンテルミーニが大クラッシュしてデビューを逃した。
タイヤバリアによる間に合わせのシケインが作られたそのスペインGP。ドライバーのボイコット騒ぎまで起こる始末*2。
ドイツGPでフェルスタッペンがピット作業中に火災に巻き込まれた。
その前のイギリスではフォーメーションラップ中にシューマッハーがデイモン・ヒルを追い抜いてしまうという珍事*3もあった。
シューマッハー、黒旗無視まで仕出かし、失格&ハンガリーから2レース(?)出場停止。
イタリアでスタート直後に多重クラッシュで赤旗。トップ快走中のアレジがピットストップで再スタートできずリタイア。
日本では大雨の中のスタートに潰れていくマシンたち。ダンロップで現場処理中のマーシャルにブランドルのマクラーレンがスピン状態で突っ込み、マーシャルがはねられる事故。
最終戦オーストラリア(アデレード)ではコントロールを一瞬失ったマイケルと、そのドイツ人を抜こうとしたデイモンがマイケルのブロックで接触・・・というかクラッシュ*4し、マイケルはその場で、デイモンはピットで双方リタイア。マイケル総合優勝。
何だったのか、この年のF1は。
今となっては何もわからない。
けれども、二人の生命が失われた事実。多くの負傷者が出てしまった事実。それは忘れずにいたい。
あれから9年が経過した。あのときのように不幸なニュースが続き重苦しい雰囲気もある今年。これ以上、悲しむことのないように願いたい。